「デジデリオラビリンス 1464、フィレンツェの遺言」
私が最初に読んだのは、集英社から1995年に出版されたもの。
デジデリオ、ラビリンスという言葉に妙に惹かれて書店で購入した。
学生時代から塩野七生さんが好きな作家のひとりだったこともあったと思う。
フィレンツェやルネッサンスという時代、カストラートの記述もあり、面白く何度も繰り返し読んだ。
有名な芸術家も登場し、エピソードもあり。
文献や出会う人、街並みなど丁寧に美しく描写され、まるで自分がそこにいるような、追体験している臨場感があった。
2000年に加筆されたのが本書である。
今回も懐かしくも面白く読んだ。
こんな人におすすめ
・イタリアに興味がある
・旅が好き
・前世や来世を信じている
あらすじ
UFOなど信じない著者が「前世を見る」女性に取材するところから、この不思議な物語が始まる。
最初は中国、唐の学僧と言われる。
その次にデジデリオという名前のイケメン青年彫刻家という前世を聞き、裏付けを探し始める。
ルネッサンス期の文化や風習なども分かりやすくまとめられ、グイグイと引き込まれる。
第一章から第三章までの構成で、第一章では日本であれこれと調べながらも、疑いが晴れない。
限界を感じ、第二章でイタリアに旅立つのだが、その思いをつづった文章に胸が打たれる。
(略)今の私は、見えないものは信じないし、もう空も飛べなかった。(略)
私もやがていつか、死ぬ時がくる。その時まで、残りの人生を、生真面目に仕事をこなすだけに使いながら、日々、指の間から砂が抜け落ちて行くように、冒険する心と機会を失っていくのだとしたら、人は一体何のために生きているのか……。
p78
私も年齢を重ねたから響いたのだと思う。
イタリアでデジデリオを追う著者の描写は本当に素晴らしい。
美しく丁寧でありながら、無駄がない。
導かれるような偶然の発見に驚きつつ、懐疑心を抱く著者が真実を追う姿がスリリング。
第三章は残った謎を抱えたまま帰国した著者が、その謎を解き、今回の旅を振り返る。
もはや前世はそれほど重要ではなくなっているように感じる。
答えが出せても、確かめる術はないことも述べているからだ。
旅の終わりの文章にも心に残る。
「人生には、遠回りしている時間はない」
と、いつも私に語りかけてくる。
「心から望むものに向かって、真っ直ぐ来い」
と。
p236
自分は誰で、どこから来て、どこへ行くのか?
あらゆるジャンルで語られるテーマに、前世というアプローチをした作品は色あせていないことを改めて感じた。
何度も読むに耐えられるのは、著者がイタリアにまで行き真実を追求する情熱を持ちながらも、猜疑心を忘れない客観性を持つバランス感覚だと思う。
偏見がない読者でも、どこか疑いがある。
それなのに偶然や驚きの発見に好奇心を刺激されドキドキするのは、著者の猜疑心という名のスパイスが効いているから。
これが結論ありきなら、ここまで引き込まれないと思う。
ページをめくりながら、過去と現在を行き来し、見事にファンタジーと現実の狭間に引きこまれてしまう。
私は輪廻転生を信じている。
もちろん確証はないが、「大切な愛する人とまた会える」と思うことで、辛い別れに耐えられるからだ。
読んでよかった点
・スリリングな非日常を追体験できた。
・ルネサンス期に活躍したデジデリオという、一人の芸術家の仕事が埋もれず時を超えて語られたこと。
メモ1
デジデリオという名前には欲望という意味もある。
意味深な名前を付けたものである。
メモ2
「フィレンツェ・ラビリンス~15世紀の私を探して」がBSジャパンで放映されていた。
杏さん主演された作品。
再放送があれば、また観たい。