18歳で大往生した犬の話

ご近所さんで、母の友人でもある方の愛犬ウェスティーの「サクラ」ちゃんが桜が散る頃に逝ってしまった。

犬で18才といえば、もう100才を超えようかというほどの高齢だ。

仔犬の頃から知っているサクラだが、とても陽気で活発な犬だった。日差しが強い時には、毛並みは白く輝くようで、いつもちょこちょこと歩いていた。
「こんにちは」
すれ違うときに飼い主さんに挨拶をすると、ゆらゆらとしっぽを振っていた。ラッシュのようにぐいぐい寄って行っくというようなことはなかった。実際に毛並みを撫でた感触は今も覚えている。とても柔らかくてなめらかだった。

ウエスティーはよくCMに出ている犬種で、ウェスティは略称で、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアというのが正式名。
頑固なところがあり、少し気難しい面があると聞いていたが、見た目とおりに愛らしい友好的なコだった。
このサクラちゃんはアトピー性皮膚炎もちで、なんでもウェスティーが罹りやすい病気の一つらしい。毛並みと一緒に皮膚の手入れもし、定期的に通院もしていたそうだ。

「本当に手がかかるコでねぇ」

とは言っていたが、サクラちゃんが16歳の頃、脳に腫瘍ができていることを獣医さんから知らされる。

先生との相談の末、なんと手術を受けるのである。

犬の寿命が伸びているということは、それだけ病気にも罹りやすく、治療法も高度化していくのは人間と同じである。

もちろん、そのころ我が家の話題にもなったこともあり、「犬も脳の手術を受ける時代になったのか…すごいなぁ」と思ったものである。

その後、退院後の通院、安静にしながらのたサクラちゃんを久しぶりに見かけた時は素直にうれしかった。頭の毛並みはもう生えそろっていたし、少しやせたかな? と感じる以外は、特に変わりなさそうに見えたからである。

しかし、脳腫瘍を乗り越えたサクラちゃんだったが、1年程経った頃また調子が悪くなる。

人間でいうところの痴呆症が出てきたのである。

昼夜逆転の生活で、お昼はぐうぐう寝て、家族が寝る頃に起きては一晩中、唸りながら部屋をぐるぐると回る。

寝室で一緒に寝るのが習慣だったのだが、これではとても眠れない。

仕方なく、階段に柵を付けて二階に上がることが出来ないようにしたが、それでもそれでも夜中の唸り声をあげながらの徘徊は収まらないどころか、何かを倒した音などが聞こえるようになる。

これには、家族が寝不足になるほど悩まされたらしく、獣医さんに相談に行く。先生のアドバイスとおりに、お昼は起こして無理のない程度に散歩に連れて行ったりするのだが、昼夜逆転は改善されない。

どうしたものか…?

家族の苦悩は深まるばかり。

その内、明らかにサクラちゃんの食欲が急激に落ちたことで、再度動物病院へ。

その時には、内臓全体にがんが広がっており、説明の時に見せられたレントゲンにショックを受けたという。

「残念ですが、もう手術をするには手遅れな状態です」

先生から、痛み止めを二週間処方されて帰宅。

連れ帰ったサクラちゃんは、ほとんど動けないようになり、ほぼ家族の誰かが付きっきりで、犬の介護にあたる。

そして12日目、サクラちゃんを抱っこして外を少し歩く。桜はすでに満開で、風が吹く度に花びらが舞い落ちていく。その日の夜中、「また明日ね。ゆっくりおやすみ」と床ずれ防止のために寝る位置を変えてやった後、頭を撫でようと伸ばした手に鼻先を付けようとして動かなくなった。それがサクラちゃんの最後だった。

サクラちゃんは、何も分らなかったわけではない。

飼い主さんに最後まで愛情を伝えたかったのだ。

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